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2014.07.17 【インタビュー】工藤律子さんに聞く(2)
今こそ、そしてこれからも…「貧乏なんてこわくない!」
――『仲間と誇りと夢と』著者・工藤律子さんに聞く(2)
中央奥が工藤律子さん、篠田有史さん
2002年、JULA出版局は工藤律子さんの著書『仲間と誇りと夢と――メキシコの貧困層に学ぶ』を出版しました。ストリートチルドレンの問題を追いかけていることからJULAと知り合った工藤さんの、ジャーナリスト人生の原点にあるのは、メキシコシティのコロニア・ポプラールと呼ばれる貧困層居住区(スラム)で自分たちの生活をよいものにするために闘っている人たちとの出会いです。先の見えない壮絶な闘い、でも、そこには仲間とのきずながあり、日々の楽しさがあり、小さな夢でも実現していくエネルギーがありました。 今、スラムの人たちはどんな生活をしているのか、つねに日本とメキシコを並行して見てきた工藤さんが今感じていることは何か、インタビューさせていただきました。
◎第1回はこちらから →★「貧乏でも豊かなくらしをしている人たちのことを知らせたい、それが今の仕事の原点」
2.追いこまれている今だからこそ、幸せに生きるために必要なものを考えたほうがいい
『仲間と誇りと夢と』の主人公のひとり、テレサさんの80年代末の家。(撮影・工藤さん)
編集部(以下、編)/工藤さんは、マヌエルさんたちのくらしが本当にぼろぼろの状態から、生活水準が上がってくるところをずっと見てきたわけですが、この本を書いた時点から10年以上たっても、彼らはきちんと生活水準をキープしているし、よりよくしようという努力をつづけているということですね。
工藤/面白いのは、本のオビに書いた言葉が今の時代の日本にぴったりだってことだけど、彼らのやっていることも、今は今で時代にあった内容に変わってきているところなんです。
昔は、生活自体がひどかったので、とにかく家をまともにする、とか、食べ物を最低限確保する、とか、そういうことを力を合わせてやっていた。でも今は、たとえば子どもや若者のためのサッカーグラウンドやスポーツ施設なんかも作ったりしているんです。それを自分たちで管理して、週末にサッカートーナメントやったりして。非行防止対策、ストリートチルドレンにならないように、ですね。あるいは、プレイしたあとにシャワーを使えるように、施設に太陽熱で温水をつくる設備をつけたんですよ。自分たちで大学のワークショップなんかに勉強にいって習ってきて、みんなで太陽熱温水器を作った。 各家庭の水もなるべく雨水をためて利用しようってことで、役場から助成金をゲットして雨水の集水タンクを取りつける活動をしたり。ちなみにメキシコシティは慢性的にすごい水不足で、毎年のように断水があるので。
編/日本みたいにびちょびちょ降らないんですね。
工藤/そう、降ってもざーっと降ってさっとやんじゃう。でも、降るときには降るわけだから、それを使うべきだって、雨水をためるタンクを取りつけたわけ。中学すら出ていない人たちが考えるとは思えないような、すごいことをするんです。
編/レベルの高いものを、あんまりお金のないなかでなんとかくふうして作ろう、ってことにすごく積極的ですよね。
住宅の自力建設は、住民(手前の二人)と、ボランティアで設計に協力した
建築学科大学生(後ろ二人)の協力で進められました。(90年代はじめ、撮影・工藤さん)
建築学科大学生(後ろ二人)の協力で進められました。(90年代はじめ、撮影・工藤さん)
工藤/お金をかけずに豊かなくらしを築くことを考える、その方法が面白い。先進国でも地域によってはそうしてやっていこうという動きはあるけれど、結局大半は、やっぱりまずはお金をためて…っていうことが、日本でもほかの国でもつづいてきた。その結果、その計画が破たんすると、みんながてんやわんやで、絶望的な状況になる人もいる。
編/頼りはお金しかないような気がしていたから、ないとなるとほかの方法を思いつけないのかな。
工藤/この本を出した当時、私が何か書いたからって日本の社会が大きく変わるなんて思っていなかったけど、少なくとも私自身は、この本に出てくる人たちに会った時点で、日本みたいに、つねに経済成長とかよりいい給料をもらえるようになったほうがいいっていう考え方を中心にした社会っていうのは、おかしいんじゃないかと思っていたから、「おかしいですよね」って言わなければと思ったし、そうしてきたつもりではあるんです。ただ、そういう声は、日本においてはあまり大きくはならなかった。実際には逆の、やっぱりお金があるほうがいい、成長があるほうがいいって考えのほうがつねに主流だった。おかげで、今のようなことになってしまった。いざ経済的に苦しいってなったら、みんなが「夢を抱けない社会」とか言いだした。
夢を抱けなくなっちゃうのは、あまりにも、お金を稼ぐ、経済成長ありき、って方向に走ってきたからだって、今こそ思うべきだし、思う理由はじゅうぶんにあると思う。一部だけど先進国でも――欧米なんかは特にそうだけど――反貧困とか、脱成長とか、そういう方向に動きはじめている人がかなり出てきている。まさにもう一度、(マヌエルたちのような)人の原点ともいえる発想で、自分たちの生活を豊かにしてきた人たちを見習うのがいいんじゃないかと…思わせられる状況ですね、日本は。
編/ここ最近、特にニュースなどで、たとえばシングルマザーの貧困の問題であるとか、子どもの教育援助費の削減の話題だとか、本当にのっぴきならない状況になってきて、「ああ、お金がないとそんなふうになっていくのね」っていう伝え方ばかりになっている。もちろんその人たちは絶対支援しなきゃいけないけれど、そういう人を救うためにも…なんとなく、みんなが今よりちょっと貧乏になってもいいから、みんなで幸せになれるようにしていくヒントになることがあればな、と思ったときに、「貧乏なんてこわくない!」っていうフレーズが目に飛びこんできて。
日曜日はよくマヌエル家に仲間が集まって食事をしていたそうです。
最後列左から2番目がフアナさん、右隣がマヌエルさん。
前列右端に工藤さん。(撮影・篠田さん)
工藤/特にタイトルを『仲間と誇りと夢と』ってしたのは、まさにそこ。お金がなくても、仲間がいて、みんながそれぞれに自分のやっていることとか考えに誇りをもっていて、それをもとにして、みんなが「こうやりたい!」「こうなりたい!」ってささやかでも夢をもっているっていうことが、本当に幸せって感じられる最大の条件だと思う。お金があればいいっていうものではないってことだから、逆に「ない!」って追いこまれている今こそ、じゃあそれでも幸せに生きられるためには何が必要なのかっていうことを、この人たちを見習いながら、もう一度考えたほうがいいって思いますよね。
(第3回につづく)

投稿者 JULA出版局 (11:25) | PermaLink
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