JULA出版局金子みすゞ| 2024.02.28

『金子みすゞ全集』発行40周年!

1982年に、矢崎節夫氏が金子みすゞの弟・上山雅輔(かみやま・がすけ)氏から託された3冊の遺稿手帳。矢崎氏が大学1年生で「大漁」に出会ってから、16年にわたる捜索のすえにたどりついた奇跡でした。
みすゞの自筆で書かれた全512編のうち、8割が未発表作品でした。多くの出版社をまわり、作品を世に出したいと奔走する矢崎氏に、「活字にして残しておけば、50年先の人がそのよさに気づいてくれるかもしれない」と、全集刊行に力を添えたのが、当時JULA出版局の編集長だった大村祐子でした。

1984年2月28日。
ついに『金子みすゞ全集』(限定版)は出来上がりました。「私と小鳥と鈴と」も「こだまでしょうか」も「星とたんぽぽ」も生前未発表、この本が初出です。きょうは、いま愛されるみすゞの作品が世に出て40年という記念の日なのです。

『金子みすゞ全集』は、みすゞの作品を活字にして後世に残したいとの思いに賛同してくださる方から予約注文をとり、1000部が印刷されました。すでに手帳はぼろぼろで、矢崎氏が雅輔氏の許可を得て、3部だけ手帳のすべてのページのコピーを取らせてもらったうちの1部が、全集の原稿として使われました(上の写真)。手帳に書かれていた作品は、完全原稿ではなく草稿のような状態で、活字に置き換えるためには、「編集注記」に書かれているとおり、さまざまな苦労がありました。また、この時点までに見つかっていた発表作品については、その形を採用し、解説ノートに手帳の形を入れるという方針で編集されています。

その後、金子みすゞの作品は、私たちの想像以上の広がりをみせました。
限定版を求めることができなかった方たちの熱望により、1984年8月には、新装版として全集を出版、同時に子どもたちにも親しみやすい選集をという声に応えて、『金子みすゞ童謡集 わたしと小鳥とすずと』も出版しました。この選集が多くの方の手に届き、教科書に採用されたり、日本への留学生が手にとってそれぞれの国で紹介してくださったりして、作品は確実に広がっていきました。

2003年。
みすゞ生誕100年を記念し、JULA出版局は、新しい形の全集の出版を決断しました。ここまでの20年間に、みすゞは詩人として広く知られるようになり、子どもにも読める全集をという要望が多く寄せられていました。そこで、新しい全集である『金子みすゞ童謡全集』は、現代仮名遣い・新漢字を用い、小学5年生以上の配当漢字にルビを振りました。また、この間に手帳の全ページを撮影し原稿を確認、新たな研究成果も踏まえて、テキストを校正、編集しました。作品を比較、検討するなかで、生前発表作の多くが、投稿作品としてオリジナリティーはあまり尊重されていなかったのではないかという疑問が起こり、みすゞの遺稿を尊重して編集するという方針をとったのも、この全集の特徴でした。

そして2022年。
生誕120年を前に記念出版した、『金子みすゞ童謡全集』(普及版)により、512編の作品を1冊で読んでいただけるようになりました。2003年の表記を生かし、より多くの方にみすゞの全作品を手にとっていただきたいという願いをこめています。

この40年間、一度も全集を絶やすことなく出版を続けてこられたのは、支えてくださった多くの読者のみなさんのおかげです。これからも、JULA出版局は、金子みすゞの作品を後世に伝えていくために、識者の協力を得て、テキスト研究・出版を続けてまいります。みなさまのお力添えをお願いいたします。