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2014.07.11 【インタビュー】工藤律子さんに聞く(1)
今こそ、そしてこれからも…「貧乏なんてこわくない!」
――『仲間と誇りと夢と』著者・工藤律子さんに聞く(1)
2002年、JULA出版局は工藤律子さんの著書『仲間と誇りと夢と――メキシコの貧困層に学ぶ』を出版しました。ストリートチルドレンの問題を追いかけていることからJULAと知り合った工藤さんの、ジャーナリスト人生の原点にあるのは、メキシコシティのコロニア・ポプラールと呼ばれる貧困層居住区(スラム)で自分たちの生活をよいものにするために闘っている人たちとの出会いです。先の見えない壮絶な闘い、でも、そこには仲間とのきずながあり、日々の楽しさがあり、小さな夢でも実現していくエネルギーがありました。 今、スラムの人たちはどんな生活をしているのか、つねに日本とメキシコを並行して見てきた工藤さんが今感じていることは何か、インタビューさせていただきました。
文中の写真のうち、撮影者の記載のないものはすべて、篠田有史さんの撮影です。
1.貧乏でも豊かなくらしをしている人たちのことを知らせたい、それが今の仕事の原点
編集部(以下、編)/『仲間と誇りと夢と』を出版して、もう12年になります。そして、このごろの日本の状況を見ていると、ますます、本のオビの「貧乏なんてこわくない!」ってメッセージが、伝えなきゃいけないものに思えてきて、お話をうかがおうと思ったんです。工藤/この「貧乏なんてこわくない!」っていうことを最初に感じたのは、話の舞台になっているメキシコシティのスラム地区でのことだったんです。これは日本で伝える必要がある、ここの人たちの生活や闘いの中には私たちが学ぶべきことがたくさんある、と思いました。
編/工藤さんはそもそも、ご自身の育ちの中でどんな生活を見てきて、「貧乏なんてこわくない」という思いにいたったのですか? 生活環境のすごくちがう人がまわりにいたとか。
工藤/私はすごく貧乏でもなければ特にお金持ちでもない、ごく普通の家庭で育ちました。毎日家族でいろんなことをするのが好きな親だったので、それだけで楽しく、お金がたくさんあったほうがいいだとかどうとか、あまり考えたことはなかったんです。小中学校の大半は四国の田舎で過ごし、家から近い公立学校に通っていたので、いろんな家庭の子がいる環境で、多様な人間がワイワイいるのが普通だと思ってました。それが楽しかったし。 ところが高校時代、アメリカに留学したころから、貧富の差や内戦、クーデターなどのある世界、私のまわりとはぜんぜんちがう世界があるんだって知りました。でも、苦しい状況に生きてきたはずのラテンアメリカからの移民の同級生たちが、あまりに明るくたくましいのにびっくりして、彼らの世界がどういうものかを知りたくて、大学生のとき、ラテンアメリカの国、メキシコに行きました。そこで出会ったのが、スラムの人たちです。 貧困層っていわれる人たちのくらしは大変だろうな、と勝手に思っていたんだけど…これが意外に楽しそうというか、精神的には豊かなくらしをしていると感じて、経済成長や高収入ばかりをめざさなければいけないと思わされて、あくせく働くはめになっている日本の人たちこそ、こういう生き方を知るべきだなと思ったのが、この本を書いたきっかけ、というよりは、今の仕事を選んだきっかけです。世界の現実から真実を学ぶために、取材・執筆活動を仕事にしようと、このときはじめて考えた、というか、思いつきました。
編/ラテンアメリカに興味をもち、そこにくらす人たちの生活に興味をもち、行ってみたら、なんかたくましく生きてるぞ、すごいぞっ、っていう。
スタディツアー参加者の若者たちに、
「ドス・デ・オクトゥーブレ」の歴史を語るマヌエルさん(右端)。
となりが工藤律子さん。
工藤/そう。21年前から始めた私たちのNGO「ストリートチルドレンを考える会」が、毎年メキシコシティでスタディツアーをやっているなかで、平日は現地のNGOを訪問するんだけど、日曜の休みを使って、2年ごとくらいに、この本の舞台の「ドス・デ・オクトゥーブレ」をたずねるんです。そこはかつてはそうとう貧乏なスラムだったけど、今は私の友人たち、住民ががんばったおかげで、それなりの姿になっている。経済的にも、2、30年前に比べれば、ずっとよくなっています。でも、本の主人公である住民リーダーの友人たちは今でも、ちょっとでも生活をよくしようと活動しているんです。 そこに、ツアーに参加した日本の若い人たちを連れていくと、やっぱり、私が最初に彼らと出会ったときと近い感覚を抱くみたいなんですよ。私が学生のころとちがって、今の若い人たちは就職が大変だとか、就職したからって順調に給料が上がるなんて時代じゃないからとか、私よりももっと経済的に危機感をもっているだろうけど。
編/それでも高学歴、高収入をめざすという、なんだか画一的な価値観に押しこめられてしまっているけど、そこからこぼれ落ちる確率のほうがどんどん高くなっていて…
ツアーで食べたメキシコ料理の中で一番おいしかったとみんなが絶賛!!
フアナさんのchile relleno(大きなピーマンのような唐辛子の
チーズ詰めの天ぷらのようなもの)、煮豆添え
工藤/そう、私よりもずっと、貧乏になることへの恐怖感があると思う。けれど、そういう人が、スラムで生きてきた人たちに会うと、すごく感動するんですよね。私もちょっとびっくりするくらいに。実際にそこを訪ねてやっていることは、住民リーダーのマヌエルの家で、本に書いたような、彼らがどうやって今の生活を手に入れたかを話してもらって、そのあと(マヌエルの妻)フアナの手料理を食べて、テキーラを飲んで踊って、みんなで盛りあがるだけなんですよ(笑)。でも、ツアーの感想文を見ると、「うまく説明できないけど、もう一度行って、もっと長く滞在してみたい」って言う学生が多い。 そういう魅力を感じるのは、こうやって助けあって生きてきた人たちだからもっている、家庭の雰囲気とか、仲間どうしで一緒に何かやっている雰囲気とか。お金と関係のないところで生みだされている安心感やあたたかさが、みんなを感動させるからなのかなと思います。
編/本に出てくる人たちは、工藤さんと同世代ですよね。日本の若い人たちは彼らの生き方に感動するということですが、逆に今のスラムでは、当時のマヌエルさんたちと同じように、「俺たちもやるぞ!」という若い人たちはいるものなのですか?
工藤/うーん、「ドス・デ・オクトゥーブレ」自体は、住宅地域としてあるていど落ちついてきているので、昔ほどがんばらなければならないという感じではないんですよね。でも、マヌエル家の娘たちは、父親の活動に参加していますよ。彼らとともに、隣の地域で住宅問題に取り組む人もいるし。 そもそも自分たちでなんとかしていこうという意識をもって、しかもそれが一人二人じゃなくて、みんなで力を合わせればなんとかなる、っていう発想の人たちは、どこにでもいるわけではない。そう考える人のいる地域はどんどんよくなるし、そうでない地域はいつまでたっても、バスは来ないわ、道はぼろぼろだわって、生活環境が悪い。
編/少なくとも「ドス・デ・オクトゥーブレ」は、マヌエルさんたちががんばった成果の積み重ねで、生活水準はスラムをつくったときよりかなり上がっているということですか?
80年代末のマヌエル家と子どもたち(後ろ姿が長男。右奥が長女、手前が次女)。
床は地面のまま、木板とトタンの小屋だった。/撮影・工藤さん
工藤/もう、圧倒的にちがいます! 今、若い人たちがたずねていくと、マヌエルたちの家がすっかり立派なので、昔の写真を引っぱりだして、「ここからこういうふうに家を建てて…」なんて話を聞いてはじめて、ええっ!? て感じになるんです。 私自身は、彼らと出会ったころ、そして写真を撮ってる篠田(有史)と一緒に行くようになってからも、住んでいるところも着ているものもほとんど変わらないんですけど(笑)、彼らが住んでいる家は、私たちが住んでいる小さな部屋とは比べものにならないし、昔の掘っ立て小屋を考えたら、10倍ぐらいいいものになり、スペースもうちの3倍ぐらい広い家に住んでいるので、今の彼らの家にただ行っただけでは、昔のことはまったくわからないです。
編/スラムというより、ただちょっと町はずれに住んでいるくらいの感じ?
工藤/そうそう、ちょっと遠いな、くらい。もちろん同じ地域の中でも、彼らと一緒にがんばらなかった、というか、めんどくさがったり、政府やお金をばらまく権力者に頼ってばかりいた人たちは、行政のトップが変わると頼る先がなくなって、自分たちの生活をコンスタントによくできなかった。だから、地域の中にも、ところどころ粗末な家が混じっている。彼らのグループにいた人たちは、みんな立派な家に住んでいて。今しか知らないと、本当に昔の壮絶な闘いは想像もつかない。
編/『仲間と誇りと夢と』の時点でも、マヌエルさん一家はいいお家を建てているところでしたよね。いまはそれよりいいお家?
工藤/そうそう。
編/これでもけっこう立派な家なのに!
工藤/本に写真が出ている家は、書いてあるように、住民グループの自力建設計画で、みんなで建てた家。今はここを売って、新しく建てて、そこに住んでいます。もうひとりの主人公テレサは、本の時点ではアメリカに行って出稼ぎしていたんだけど、それで稼いだお金で自力建設した家に建て増しをして、下のフロアを人に貸して、家賃である程度の生活費を得られるようにしているんです。(第2回につづく)

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